ねこのいるせいかつ

ねこのいるせいかつ

第一話

私の家にはねこが二匹いる。今日はその一匹の話。
私が大学生の頃、捨てられたペットの引き取り先を探している保護団体から譲り受けた子。
家について、餌やらを買いに車で出かけてたら、携帯にカレシから電話があって、
「脱糞した!」
先住の半野良が首をガブリ!とやったらしい。
慌てて家に戻って、近所の動物病院に運ぶと、先生が気の毒そうに言ってきた。
「あの子ね……おそらく障害が残ると思うわ。ジャンプなんかが出来なくなるんじゃないかしら。 聞いたところによると、まだ出会ってまもないのでしょう?病院で引き取ることもできるわよ」
確かに出会って一時間にも満たない、まだ名前もついていない子だった。
でもこの子は、とある家の門に、ビニール袋に入れられて捨てられてたって聞いていた。その子をまた私が捨ててもいいの?という気持ちになった。
「飼います。うちのねこにします」
そうお?大変だと思うわよ、入院代もかかるし、と先生は言っていたけれど、後には引けなかった。私は捨てたくない、小さな眼でこっちを見ているこの子を。
「茶色くてまん丸いから、お前の名前はまんじゅうにしようか。おいしそうだしね」
こうして名前はまんじゅうに決まった。呼んでたのは最初だけで、後は「まる」と呼ぶようになったけど。ペットを飼うのは初めての私には、まんじゅうが本当に愛おしかったんだ。
そうして、わたしはまんじゅうの入院代を稼ぐために、水商売を始めた。

まんじゅうは十日間くらい入院していた。まんじゅうのなきごえは他のねこを刺激すると言われ、隔離されていた。
「やっとうちに帰れるよ、まんじゅう」
思ったよりも障害の度合いは悪くなかったようで、普通のねこみたいに忍び足はできないけど、とことこ歩けるようになっていた。
「右半身がね、ちょっと不自由だと思うの。でも随分元気になったみたい」
うちに帰ると、するりととびおり、こっちを見てにゃあおとないた。ああよかった、まんじゅうは私のねこだ。

こうして我が家の一員となったまんじゅうだけど、平穏無事に過ごせたわけではない。
ある時、どうしても実家に帰らなければいけない用事ができて、カレシにまんじゅうの世話を頼んだことがあった。
二泊三日が長く感じられ、高速バスにじりじりしながら到着を待った。
そしてうちにつくなり、「まんじゅう!」と駆け寄ると……どうも様子がおかしい。いつもはとてとて、と迎えに来るのに、来ない。
「まんじゅうなんかあった〜?」
平静を装ってカレシに聞いても、「何もないよ」の返事。でも明らかにおかしい……!
「病院行ってくる!」帰りの荷物もとかないまま、おんぼろの、でもこいつも可愛らしい軽自動車に乗って病院へ向かう。
結果は骨折……狭くて暗いキッチンにいたまんじゅうを、カレシが踏んでしまったのだった。
「なんで言ってくれなかったの?」と詰め寄る私に、カレシは「だってお前俺よりまんじゅうのことが好きじゃん?」
はい、破局をむかえましたとさ。ねこと俺とどっちが大事なの?って、仕事と私とどっちが大事なの?みたいでなんか笑えてきた。 まんじゅうはもう野生では生きていけないんだよ?パチンコで生活費をすってしまって、片栗粉で一カ月過ごしたのがカレシの自慢なら、 私はやっぱりまんじゅうをとるかなあ。

淋しい女はねこを飼う、とはよく言ったもので。
私はどうやら水商売が性に合っていたらしく、「天職だよ!」と褒められ?たりもした。しかし浮世の儚さよ。お客さんと付き合っても所詮は遊び。 泣いて暮らした日々もあり、携帯の着信履歴を見られ激怒したり。
その度に、まんじゅうに泣きついてきたものだった。
「まんじゅう〜、私って男見る目がないのかなあ」
うみゅ、っとまんじゅうはないた。きっと肯定したんだと思う。

続く

モドル